冷たい風が傷口を舐める

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神殺しシリーズ。ルルスザ。


ハロウィン2話目。
ルルーシュとスザクの逃げた先。

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10月の風は、僅かな冷たさを伴ってスザクの体を撫でていった。生徒会室から逃げ出したあのあと、スザクの手を引いて走っていたルルーシュは、案の定というか、ほぼ予想通りというか、早々にバテた。肩で息をするルルーシュを見ているのは非常に忍びなく、彼が嫌がるであろうことを承知の上で、その体を抱き上げて屋上まで走ったのはスザクだ。・・・おかげで現在、ルルーシュの機嫌は底辺を這っている。


（僕とルルーシュの体力を比べても仕様がないと思うんだけどなぁ・・・）


好い加減、そこらへんのことは諦めてほしい。ルルーシュにも男としての矜持はあるのだろうが、スザクは化け物並みどころか、まさしく化け物の体力を持つ存在だ。人並み外れた身体能力は、祟り神憑きが持つ特徴のひとつらしい。そのスザクに体力で負けたからといって、そもそも比べること自体が間違っているのだ。・・・そう説明できないところが歯痒いが、いつまでも機嫌を損ねられているのも困る。難しい顔をしてフェンスに背を預けているルルーシュを横目でちらちらと窺いながら、スザクは恐る恐る口を開いた。


「ね、ねぇ、ルルーシュ？」
「・・・なんだ？」


・・・どうやら答えてくれる気はあるらしい。なら、とスザクは思い、いっそのことこの空気ごと変えてしまおうと言葉を繋げる。


「は、ハロウィンってさ」
「・・・・・・」


まずった。あまり話題が変わってない。


「・・・・・・仮装するのって、お化けに攫われるのを防ぐためだって聞いたけど、本当？」
「・・・微妙に語弊があるな。正確には、悪霊に取り憑かれないように、だ」
「そっかー・・・」


――じゃあ、もう僕は手遅れだな。


だってスザクは、生まれたときにはもうすでに取り憑かれているんだから。一際強い秋風が、ルルーシュとスザクの髪を揺らしていく。冷たくなっていく風は、心の底まで凍らせていくようで、少し怖い。夏の暑さが恋しくなって、けれども夏は、スザクのすべてを変えてしまった季節だったからやはりそれだって苦しくなるに違いないのだ。

祟り神という化け物に憑かれた自分。・・・いや、もしかしたらスザク自身が祟り神なのかもしれない。この世に生を受けたときから共にあるのだから、それはもうスザク自身だと言っても差し支えないような気もする。C.C.辺りが聞いたら眉を吊り上げて怒り出しそうなことを考えながら、スザクは小さく自嘲の笑みを洩らした。でも、もし本当にスザクが化け物であるならば。


「やっぱりルルーシュは仮装しておくべきだ・・・」


――僕という悪霊に、取り憑かれないためにも。


「冗談じゃない、誰があんな服着るか」
「え？」
「え、じゃないっ。好きこのんで女装するような男がどこにいる！」


口に出していたという自覚が欠けていたスザクは、そこでようやくルルーシュとの会話の齟齬に気付き、密かに安堵の息を吐いた。それから、苛立たしげに顔を歪めるルルーシュに向けて笑みを拵えながら、素知らぬ顔をして会話を続ける。――こんなことばかりが上手くなっていく自分に、吐き気さえしたけれど。


「でも見たかったなぁ。ルルーシュの吸血鬼公爵夫人」
「お前まで会長みたいなことを言うなっ！　・・・ったく、冗談じゃない」
「んー、でもせっかくのハロウィンだし。楽しまなくちゃ損だよ？」


どんどんと深くなっていく眉間の皺を見ながら、スザクは小さく苦笑を洩らす。・・・と、同時にルルーシュがふっと顔を上げた。クセになるんじゃないかと危惧するほど深く刻まれていた皺がすっと緩み、唇には凄艶なまでの美しい微笑。輝きを増した紫玉の眼差しにスザクは若干の嫌な予感を覚えた。


「そうか、お前は俺にハロウィンを楽しんでほしいわけか」
「・・・そ、それは・・・まぁ・・・うん・・・」


非常に引っ掛かるニュアンスであることは確かなのだが、彼にハロウィンを楽しんで貰いたいというのは嘘ではない。心底否定してしまいた衝動に駆られながら、それでもルルーシュにこれ以上嘘と隠匿を重ねるのは憚られて、正直に答える。・・・僅かに体を引いてしまったぐらいは、許容範囲として認めてほしい。


「なら、お前がすることはただひとつだ」
「へ？」

「スザク――Trick or treat？」


母親譲りの綺麗な顔に、これまた綺麗すぎる微笑を湛えたルルーシュの言葉に、スザクは一瞬だけきょとんとし、それから盛大に顔を赤らめた。


――――――
次回はルルーシュのターン！（笑）